岩手日報社では首都大学東京の渡邊英徳研究室と共同で、東日本大震災津波から5年の節目に本県で震災の犠牲になった方々の地震発生時から津波襲来時までの避難行動を地図上で再現したデジタルアーカイブ「犠牲者の行動記録」を作成し、教訓を記した特集記事を2016年3月5日付朝刊から5回にわたって掲載しました。
その取り組みを含む報道「命の軌跡~東日本大震災5年 一連の報道~」は高く評価され、16年度新聞協会賞(編集部門)を受賞しました。ここに「犠牲者の行動記録」を紹介します。
「犠牲者の行動記録」は、犠牲になった方々のご遺族に取材し、地震発生時と津波襲来時の詳細な居場所が分かった1326人の避難行動をデジタルの地図上で、分かりやすく再現しました。ご遺族の了解を得られた687人については、実名で掲載しています。震災の教訓を後世にしっかり伝えるには、犠牲になった方々の「声なき声」に耳を傾ける必要があると考えたからです。
津波常襲地の三陸は「高台へ逃げる」が昔から防災の基本ですが、行動を分析してみると低地の避難所に向かう人や過去の津波災害の経験から「ここまで津波は来ない」と自宅にとどまる人が多いなど、課題が浮き彫りになりました。この調査報道を基に岩手日報社は「命を守る5年の誓い」※を提言しました。現在、「行動記録」は各地の防災教育や大学の研究などにも活用されています。海外からも反響があり、英語版とインドネシア語版も作って公開しています。災害で二度と貴い命を失わないよう、ぜひ役立ててもらえればと思います。そのことが震災で犠牲になった方々の追悼にもなると信じています。
※「命を守る5年の誓い」
■命を守る教訓を後世に
岩手日報取締役編集局長 川村 公司
東日本大震災5年という節目に、かけがえのない命を奪われた方々の行動記録をまとめました。1326人(実名687人)にも上る最期の状況を、これだけ克明に再現した記録は過去の災害で例がないと思います。これもひとえに、ご遺族のご協力があったからです。
分析すると、逃げる際に高台ではなく低地に向かう人、自宅にとどまった人が多く、その理由をひとくくりにすることはできませんが、避難所の設置場所や避難訓練の在り方などの課題が浮き彫りになりました。
犠牲者の方々の「命の軌跡」とも言えるこの記録を後世に伝え続けることが、今を生きる私たちの使命でもあります。